作楽神社

当社は、鎌倉時代に美作の守護職（大名）の館（やかた）のあったところで、境内全体が国指定の史跡となっています（大正１１年指定）。
　元弘のむかし、第９６代後醍醐天皇が時の執権北条高時のために隠岐に流される途中、この館にお泊まりになりました。ここまで、備前の人児島備後三郎高徳は、天皇を賊から奪い勤王の義兵をあげようとして船坂山や杉坂峠で一行を待ちかまえましたが、みな失敗に終りました。その後、単身この館に忍びこもうとしましたが、これまた警戒厳重でそれも果たせませんでした。
　折から、館の門の前に春雨にぬれて美しく咲いていた桜の幹を削り「天莫空勾践時非無范蠡」と１０字の詩を書いて立ち去ったという故事が残されています。

※「天莫空勾践時非無范蠡」
　天(てん)勾践(こうせん)を空(むな)しゅうすること莫(なか)れ時(とき)に范蠡(はんれい)無(な)きにしも非(あら)
　解説：《勾践は中国春秋時代の越の王。范蠡は呉に敗れた勾践を助け、呉を滅した忠臣》
　　　　天は勾践を見捨てない、時がくれば范蠡のような忠臣が出て助けてくれる。

作楽神社の創建は、明治二年（1869年）十一月二十七日ですが、その根幹となる出来事として行在所となった院庄館跡における、後醍醐天皇と児島高徳の故事があります。一方、貞享五年（1688年）七月、当時の国主森家の家臣長尾勝明は行在所の遺跡が荒廃していることに心を傷め、森候の意を受けて、東大門跡に桜を植え石標を建て新道を作って遺跡を保存しました。
　また、文化九年（1812年）津山藩主松平康孝候が行在所遺跡の三方に松を植樹し、児島高徳公の木像を写し記文を撰し拓本として世に頒けました。さらに、嘉永七年（1855年）二月には藩主が更に改写して世に頒布しました。その後、慶応四年（1868年）に津山藩主松平慶倫候が院庄を訪れ、長尾勝明の文章を見て自ら副書して頒布し勤皇の志を鼓舞しました。そして、明治二年（1869年）行在所遺跡の中央に後醍醐天皇を主神とし児島高徳を副神として、作楽神社を創建したのです（明治十年三月に県社に列しました）。